私の夫
私の主人は、無口だ・・・
そして、愛想もくそもない。ひたすら黙っている。どんなに宴席が盛り上がっても、
桜が満開でも、クリスマスパーティーが盛り上がっても、20世紀最後の忘年会も21世紀最初の新年会も黙って座っている。
主人に慣れている人は、何も気にせず、無口な主人を無視して普通に楽しんでくれるが、初めて主人に会った人はそうはいかない。
必ず、主人のいないところで、「ご主人、怒ってるの?」と心配そうに聞いてくる。
「ううん、いつもあんなのだよ。ぜんぜん怒ってないよ。ただテンションが異常に低いだけだから、無視して楽しんで・・・」と答える。
仕事もまじめにこなし、家族も愛してくれて、趣味にいそしみ、自分自身の向上を計るため学校にも通っている普通のサラリーマンである。
ただ他の人と違うのが、無口で感情を全く表に出さないだけである。
私が、室内犬を飼いたいと言ったとき、彼は賛成も反対もせず「ふう~ん」っと愛想のない返事をしただけだった。
子犬が我が家にやってきて、家族みんながわーっと触りまくって、抱っこしまくっていても、彼は、だまって遠くから、子犬を見ていた。
「犬、好きじゃなかったっけ?」っと心配そうに聞いてみたら、
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・好き。」とポツリといって、また趣味にいそしんでいる。
「本当に好きぃ~???」っと疑っていた私は、後日、彼の言葉に嘘はなかった事を知った。
そして、無口な彼の意外な一面を見てしまった。
その日、私はインフルエンザにやられており、子犬をひざに抱っこしながら、主人に作ってもらった鍋焼きうどんを食べ終え
「う~、あかん・・・死にそぉ~もう、寝る~」っと言いながら子犬を下ろして一人で寝室に入ろうとした。
そのとき、子犬が抱っこに満足できなかったのか、
「もっと、抱っこせぇやぁ~」っと言わんばかりに私のおしりにタックルしてきた。
「あかん、今日はもう寝かせて~」っと寝室に子犬を入れずにドアをしめてベッドに入ろうとしたら、
「満足な抱っこしてくれるまでは、寝かせへんでぇ~」ってな勢いである。
主人が子犬を持ち上げて、台所に連れて行きパタンとドアの閉まる音がした時、私は、もう半分、気を失いかけていた。
何時間か眠った後、のどが渇いて、水を飲むため台所に入ろうとした時、私は聞いてしまった。
「よちよち、いい子ちゃんでちゅねぇ~」
「はい、ネンネちよ~ね~」
「いい子ちゃん、いい子ちゃんね~」
そして、目に入ったのが、
犬をあぐらの上に乗せ、犬のおなかをなでながら
「♪おなか、くるくるぅ~♪」と謎の歌を歌っている彼の姿だった。
友達の赤ちゃんを見に言った時、
「怖いから触れない」といった人が、子犬のおなかをなでながら
「♪おなか、くるくるぅ~♪」を連発している。
ありゃぁ~、見てはいけないものを見てしまったような気がして、わざと足音を立てて入っていくと
ぴたっと黙って、テレビを見てるふりをする。
次の日、彼の実家に電話して、この一件を話してみる。
お義母さんも、信じられないと驚いていた。
(ちなみにお義母さんは機関銃のように話す。)
犬嫌いでは、なかったっというか、かなりの犬好きと確信した私は、
それからは、思う存分、主人にも子犬のめんどうをみてもらうことにした。
私の前では決して、犬に話しかけたりしないが、誰もいないところでは犬と、気持ち悪いコミュニケーションはかりまくってるんだろうなっと思ってしまう。
主人が、「クッション!!」と言うと、子犬はクッションを探し回って、口にくわえて、トットットッと主人の所まで持っていく。
「毛布!!」っと言うと、自分のお気に入りの毛布を犬小屋から引っ張り出してきて
主人の前まで持っていく。そして小犬はおなかを見せて「くるくる~♪」をねだっている。
まったく、人はみかけによらないものである。