sabbathcafe

3分で読めるショートエッセイ

私の夫

私の主人は、無口だ・・・

そして、愛想もくそもない。ひたすら黙っている。どんなに宴席が盛り上がっても、
桜が満開でも、クリスマスパーティーが盛り上がっても、20世紀最後の忘年会も21世紀最初の新年会も黙って座っている。

主人に慣れている人は、何も気にせず、無口な主人を無視して普通に楽しんでくれるが、初めて主人に会った人はそうはいかない。

必ず、主人のいないところで、「ご主人、怒ってるの?」と心配そうに聞いてくる。

「ううん、いつもあんなのだよ。ぜんぜん怒ってないよ。ただテンションが異常に低いだけだから、無視して楽しんで・・・」と答える。

仕事もまじめにこなし、家族も愛してくれて、趣味にいそしみ、自分自身の向上を計るため学校にも通っている普通のサラリーマンである。

ただ他の人と違うのが、無口で感情を全く表に出さないだけである。

私が、室内犬を飼いたいと言ったとき、彼は賛成も反対もせず「ふう~ん」っと愛想のない返事をしただけだった。

子犬が我が家にやってきて、家族みんながわーっと触りまくって、抱っこしまくっていても、彼は、だまって遠くから、子犬を見ていた。

「犬、好きじゃなかったっけ?」っと心配そうに聞いてみたら、

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・好き。」とポツリといって、また趣味にいそしんでいる。

「本当に好きぃ~???」っと疑っていた私は、後日、彼の言葉に嘘はなかった事を知った。

そして、無口な彼の意外な一面を見てしまった。

その日、私はインフルエンザにやられており、子犬をひざに抱っこしながら、主人に作ってもらった鍋焼きうどんを食べ終え

「う~、あかん・・・死にそぉ~もう、寝る~」っと言いながら子犬を下ろして一人で寝室に入ろうとした。

そのとき、子犬が抱っこに満足できなかったのか、

「もっと、抱っこせぇやぁ~」っと言わんばかりに私のおしりにタックルしてきた。

「あかん、今日はもう寝かせて~」っと寝室に子犬を入れずにドアをしめてベッドに入ろうとしたら、

ガリガリと爪でドアを引っかく音・・・

「満足な抱っこしてくれるまでは、寝かせへんでぇ~」ってな勢いである。

主人が子犬を持ち上げて、台所に連れて行きパタンとドアの閉まる音がした時、私は、もう半分、気を失いかけていた。

何時間か眠った後、のどが渇いて、水を飲むため台所に入ろうとした時、私は聞いてしまった。

「よちよち、いい子ちゃんでちゅねぇ~」

「はい、ネンネちよ~ね~」

「いい子ちゃん、いい子ちゃんね~」

そして、目に入ったのが、

犬をあぐらの上に乗せ、犬のおなかをなでながら

「♪おなか、くるくるぅ~♪」と謎の歌を歌っている彼の姿だった。

友達の赤ちゃんを見に言った時、

「怖いから触れない」といった人が、子犬のおなかをなでながら

「♪おなか、くるくるぅ~♪」を連発している。

ありゃぁ~、見てはいけないものを見てしまったような気がして、わざと足音を立てて入っていくと

ぴたっと黙って、テレビを見てるふりをする。

次の日、彼の実家に電話して、この一件を話してみる。

お義母さんも、信じられないと驚いていた。

(ちなみにお義母さんは機関銃のように話す。)

犬嫌いでは、なかったっというか、かなりの犬好きと確信した私は、

それからは、思う存分、主人にも子犬のめんどうをみてもらうことにした。

私の前では決して、犬に話しかけたりしないが、誰もいないところでは犬と、気持ち悪いコミュニケーションはかりまくってるんだろうなっと思ってしまう。

主人が、「クッション!!」と言うと、子犬はクッションを探し回って、口にくわえて、トットットッと主人の所まで持っていく。

「毛布!!」っと言うと、自分のお気に入りの毛布を犬小屋から引っ張り出してきて

主人の前まで持っていく。そして小犬はおなかを見せて「くるくる~♪」をねだっている。

まったく、人はみかけによらないものである。