sabbathcafe

3分で読めるショートエッセイ

努力の結果

庭、もしくは玄関で、つながれて、あるいは放し飼いで一生をおくる いわゆる番犬は室内犬とはまた違った笑いを提供してくれる。

シロ(雑種♂)は、我が家にもらわれてきて以来、番犬として、庭と、父が作ったおそろしく趣味の悪い木製の犬小屋の中でしか生活をした事がなかった。

ストーブの温かさも、クーラーの快適さも知らず、また、掃除機の恐怖も知らない犬だった。

成犬になったシロは、自分の与えられた敷地内で、日々新しい挑戦をこころみるようになった。

そのひとつが穴掘りである。

庭のあちこちに彼が作成した作品(穴)があるのだが、その作品は3日ともたず

それにはまって、足首を捻挫した父によって埋められてしまう。

穴を掘っては、埋められ、また掘っては埋められの日々が続いた。

そして、シロはとうとう、究極の場所をみつけた。自分の犬小屋の下を掘り始めたのだ。

真夏のある朝、彼は、犬小屋の下を前足で、力強く掘りつづけ、納得がいくと自分の体を、穴の中にうずめ、鼻先だけを土の上に出し、満足そうにクンクンと鼻を鳴らした。

犬小屋の中にくらべて、穴の中は、かなり涼しく、快適らしい。

翌日もその次の日も、彼は日中をそこで過ごした。

家族もこれには、一目置いたらしく犬小屋の側を通るときは、穴の中で涼んでいるシロに向かって

「地下室があっていいね」っとにこやかに声をかける。

ご満悦である。

しかし、シロのご満悦は長くは続かなかった。

ある朝、私は、犬小屋が見える縁側に座って新聞を読んでいた。

すると、ザクッザクッっという音が聞こえてくる。目をやると彼がまた再び穴を掘っている。

新しい穴ではなく、犬小屋の下の穴を一生懸命掘っている。完成したと思われていた

地下室は未だ未完成らしく、より快適さを求めてか、奥に奥に、横に横に斜めに斜めに

と地下室の拡張工事が行われていた。

シロは、穴を掘り始めると、「キャウン、キャウン」と鳴くクセがある。

ずっと聞いていると「キャウン、キャウン」が「イヤン、イヤン」と聞こえてくる。一度そう聞いて

しまったら、「イヤン、イヤン」にしか聞こえず、つい笑ってしまう。

その「イヤン、イヤン」を聞きながら、再び新聞を読んでいると、急に「ギャン」っという大きな声が聞こえた。

私は慌てて縁側から飛び降りて犬小屋の近くに走り寄り絶句した。

犬小屋が大きく傾いて、穴に落ち込んでいるのである。

そして、頭をはさまれてパニックになっている。バカ犬一匹・・・

犬小屋を持ち上げてシロを救出し犬小屋を穴の横に置いた。

よっぽどこわかったのか、おしっこも漏らしていた。

シロが犬小屋にのされた原因は簡単である。犬小屋の床面積以上の穴を掘ってしまったのだ。

結果、小屋が傾いて、彼の頭を直撃したのである。

もうこれで、二度と穴掘りはしないだろうと思っていたのだが、ぜんぜんめげることなく、シロの穴掘りは再開された。犬の習性とはいえ、よほど好きらしい・・・

しかし、犬小屋落っこち事件は、彼に大きな精神的外傷を残してしまった。

この事件以来、シロは、決して犬小屋に近づかないようになったのである。

シロにしてみれば、穴を掘ったから、犬小屋が落っこちたとは解釈しなかったようで、

犬小屋が頭上から襲ってきた。

つまり犬小屋ってヤツは怖いヤツなんだと思ってしまったようだ。

しかし、犬小屋なしでは、生活は出来ない。

ここで、父の登場である。シロが穴を掘っている横で、父は、黙々と犬小屋を作り始めた。

恐怖感を与えないようするため、前の犬小屋とは全然違う形にして、丁寧に色までかえた。

そして、またまたおそろしく趣味の悪い犬小屋が出来上がり、家族のみんなを閉口させた。

シロは、新しい犬小屋を恐れることもなく、天寿をまっとうするまで、その中で眠り、小屋の隣に穴を掘りつづけた。

しかし、決して、犬小屋の下には穴を掘らなかったので、やっぱりちょっと失敗は自分に原因があったというのを知ってたかもしれないと思う時がある。