カニ食べ行こう
カニの季節である。
旅行社の前に並んでる温泉旅行のパンフレットには、どぉ~んとカニが表紙を飾っている。
そして、海の幸いっぱい温泉ツアーや、かに食べ尽くし温泉ツアー等の食をメインにしたパッケージツアーの案内がたくさん掲載されている。
温泉に行って来たと言う人に「温泉はどうでしたか?」と聞くとたいての人が料理の感想を話し始める。
例えば「あの価格の割には、いい料理だった」とか、
「料理はよかったけど、量が少なくて、夜中おなかがすいちゃったよ。」とかだ。
温泉の水質なんかを詳しく教えてくれる人は、めったにいない。
以前、カニ大好き夫婦の私達は、有名温泉カニづくしツアーに参加したことがある。
1泊2食カニ食べ放題プランだった。宿泊先での、夕食時、カニが出されて、いくらでも食べてよいというものだった。ただし、制限時間が90分である。もちろん、夕食はカニだけではない。
懐石風の日本料理がならび、カニが無くても、十分おなかは満腹になりそうだった。
料理も食べながら、お酒も飲みながら、カニも食べる・・・・なので、いくらカニ食べ放題といってもたいした量は食べられない。本当にカニだけの夕食だったら、大量のカニを食べられるだろうが、やっぱりそうあまくはない。
しかし、主人の目にはカニしかうつらない。私は、今まで、こんなにカニ好きな人を見たことがない。
もともと無口な彼ではあるが、普段は私の問いかけには、うなずいたり、答えてくれたりする。
しかしカニを目の前にすると彼は、周りの人の存在を忘れてしまう。
カニを食べ始めると、一切しゃべらず、一切人の話が聞こえなくなってしまうようだ。
沈黙にはじまり、沈黙に終わるのである。黙々とカニの足を丁寧に外し、パカっとこうらをはがす。
うっとりとした目でカニ味噌をみつめ、愛想で、私に「食べるか?」っというジェスチャーをして、
私が首を横に振るとうれしそうに、カニ味噌をたいらげる。そして、一本一本、足を丁寧に食べていく。
はさみとカニ専用のスプーンみたいなのを器用につかいこなし、それは見事にカニの身を外していく。
彼が食べた後のカニの殻は、身ひとつ残っておらず、全く、カニも本望だろうと思うくらいにきれいに食べ尽くされている。
そして、一匹食べ尽くしてしまうと、「おかわり!!」っと次のカニを迎える用意をする。
まるで、大食い選手権のノリである。制限時間があるというのが、彼の闘志を奮いたたせるみたいだが別に競争相手はいない、自分との戦いのようだ・・。
私は、一匹食べてしまうと、もう、食欲よりもカニの身をとる作業がめんどうで、イヤになってしまって、
飲む方か、他の料理を食べるほうに走ってしまう。
しかし、彼は、リズムをつかんでるのか、2匹、3匹と、どんどん食べすすんでいく。
右手にはさみ、左手にカニの足、パチン、パチンと、カニを切る音が響き、シザーハンズかと、つっこみを入れたくなる。
そして、制限時間いっぱいまでカニを食べ続けるのである。
旅行から帰ってきて、知人に、
「温泉はどうだった?」っと聞かれて
彼は「はさみがあんまりよく切れなくて手が痛かった」と言った。
気を失いそうになった。
今度、カニを食べに行くときは、是非、私がプレゼントしたカニ専用のハサミを持っていってもらいたいと思う